半導体ショックの正体|犯人は決算じゃなく金利でした
最初に、ちょっと信じられない話をします。
「AIにお金が集まるほど、AI関連株は下がる」
逆じゃないの、と思いますよね。普通はそう思います。私も最初そう思いました。
でも2026年8月18日、これが本当に起きました。日経平均は1日で1,759円安。売られたのは半導体です。
決算が悪かったわけじゃない。その会社に何かあったわけでもない。
犯人は、別にいます。
今日はこのカラクリを、最後まで分解します。最後まで読めば、次に同じ形が来たとき、あなたは理由がわかる側にいます。
まず事実から
2026年8月18日、日経平均は67,460円73銭。前の日から1,759円52銭安、マイナス2.54%です。6営業日ぶりの反落でした。
問題はここからです。この日、日経平均への寄与額が大きかった上位5銘柄を見てください。
| 銘柄 | 株価 | 日経を下げた額 |
|---|---|---|
| アドバンテスト | 35,860円 | -463.41円 |
| 東京エレクトロン | 56,380円 | -373.10円 |
| ファーストリテイリング | 75,010円 | -145.62円 |
| キオクシア | 57,150円 | -110.05円 |
| 村田製作所 | 7,496円 | -63.88円 |
アドバンテストと東京エレクトロン。この2社で、約836円。下げ幅1,759円の、ほぼ半分です。
半導体に関係する銘柄が、そろって売られた日でした。下落率で見ればもっと大きく下げた銘柄もあります。
ただ、指数を大きく動かしたのはこの2社です。ここが今日の入口になります。
その前に、30秒だけ
このシリーズは、これまで積立とインデックスの話を中心にしてきたところから、もう一歩踏み込むために作りました。オルカン、S&P500、FANG+。置いておけば増える、という話です。
それは本当です。積立は、やっておいたほうがいい。
でも、それだけでは足りません。
NISAには「成長投資枠」があります。年間240万円まで、自分で選んで投資できる枠です。ここを使わないまま終わるのは、率直にもったいない。
ただし、勉強せずに個別株を買うのは危険です。何も知らずに始めるのがいちばん損をします。
だから、一緒に勉強しましょう。相場で実際に起きたことを1つ選んで、なぜそうなったかを最後まで分解します。
では、続けます。
1限目:なぜ2社で836円も動くのか
答えははっきりしています。日経平均は「株価の高い銘柄ほど、指数への影響が大きい」計算方法だからです。
日経平均は225社の株価を足して割る、株価平均型の指数です。時価総額ではなく、株価そのものの大きさで効き方が決まります。
だから株価が何万円もする銘柄が1%動くのと、株価1,000円の銘柄が1%動くのとでは、指数への効き方がまるで違います。こういう株価の高い銘柄を「値がさ株」と呼びます。
アドバンテストと東京エレクトロンは、その値がさ株の代表格です。この2社が同時に売られると、他の223社が横ばいでも指数は大きく下がります。
実際この日、東証プライムの値上がり銘柄は722、値下がり銘柄は783、変わらずが51でした。ほぼ半々です。市場の空気は五分五分。なのに指数は2.54%安。
一方のTOPIXの下落は1.05%にとどまりました。TOPIXは時価総額で重みを付ける指数なので、株価が高いかどうかは関係ないからです。
同じ日の同じ市場を見ていても、どの指数を見るかで景色が変わります。
「日経平均が2.54%下がった」と「日本株が2.54%下がった」は、別の話です。
2限目:ではなぜ、その2社が売られたのか。原因は金利です
ここからが本題です。
アドバンテストと東京エレクトロン。どちらも半導体の検査装置や製造装置を作る会社です。この2社が同じ日にそろって売られました。決算が悪かったわけではありません。
この日、日本の長期金利(10年国債の利回り)は一時2.945%まで上がりました。1996年以来、約30年ぶりの水準です。アメリカでも30年国債の利回りが5.31%まで上がり、こちらは19年ぶりの高さでした。
金利が上がると、半導体のような成長株がまっ先に売られます。理由は1つです。
成長株の株価は「これから稼ぐ利益への期待」でできています。将来の利益を、いまの価値に置き直して評価している。このとき金利は「割引率」として効きます。
金利が上がる。すると将来の利益をいまの価値に直したときの金額が小さくなる。だから期待で買われてきた銘柄ほど、大きく下がる。
一番買われてきた場所が、一番売られます。この日それがアドバンテストと東京エレクトロンだった、というだけの話です。
そして、ここが今日いちばん持ち帰ってほしいところです。
いま長期金利を押し上げている原因の1つが、AIです。
流れはこうです。
① AI企業が、データセンター建設のために巨額の資金を集めている
② その手段として、超長期の社債を大量に発行している
③ 社債のほうが国債より良い金利がつくので、債券市場のお金がそちらへ流れる
④ 国債が売られる。国債は売られると利回り、つまり金利が上がる
⑤ 長期金利が上がる。すると成長株の評価が下がる
AIにお金が集まるほど、AI関連株の株価は下がる方向に力を受けます。
AI設備投資は、半導体メーカーの売上にとっては追い風です。同時に、金利を経由して株価には逆風になります。同じ1つの出来事が、逆向きの2つの力を出している。これがいま起きていることです。
今日のことば辞典:長期金利
今日は「長期金利」の1語だけ、きちんと押さえます。ここがわかると、今日の話が全部つながります。
長期金利とは、10年国債の利回りのことです。
国が「10年後に返します」と約束して借りるお金につく金利です。なぜ10年かというと、いちばん取引量が多くて、市場の基準として使われているからです。
大事なのは、この金利を決めているのは日銀ではないという点です。市場が決めています。
国債が買われれば値段が上がり、利回りは下がる。売られれば値段が下がり、利回りは上がる。それだけの仕組みです。
ここが短期金利との決定的な違いです。短期金利は日銀が政策金利として決めます。長期金利は市場が決めます。ニュースで「金利が上がった」と言われたとき、どちらの話なのかで意味がまるで変わります。
そして長期金利は、住宅ローンの固定金利、企業がお金を借りるときの金利、そして株の評価に使う割引率。この全部の土台になっています。「経済の地面の高さ」だと思ってください。
いまその地面が、2.945%まで上がりました。1996年以来、約30年ぶりの高さです。地面が上がれば、その上に建っているもの全部の見え方が変わります。今日の半導体株の下げは、その一例です。
プロの物差し:日経平均は「65,900円」と「69,702円」で見てください
今日はここにメスを入れます。日経平均を見るとき、この2本の線だけ覚えて帰ってください。
上の壁は69,702円です。
これは2026年8月14日のSQ値です。SQというのは先物とオプションの清算をする日で、その清算に使う特別な株価がSQ値です。
今回の8月SQ値は69,702円13銭。ところが、その日の日経平均の終値は68,713円80銭でした。一度も届いていません。こういうのを「幻のSQ」と呼びます。
SQに向けては、機械的な買いが働きます。オプションを売った側が持ち高を調整するための買いです。それがSQ通過でごっそり消えました。しかも届かなかった水準が上に残っている。ここは重いです。
下の支えは65,900円です。
25日移動平均線です。直近25営業日、だいたい1か月の平均株価。この1か月にこの相場を買った人たちの、平均の買い値だと思ってください。
いまの日経平均は67,460円。上の壁まで約2,240円、下の支えまで約1,560円。ちょうど真ん中にいます。
そのうえで言い切ります。
65,900円までの下げは、想定の範囲です。ここで止まるなら、ただの押し目です。
ただし終値で明確に割ったら、この下げは1か月では終わりません。1か月以内に買った人の大半が含み損に変わり、その人たちの戻り売りが上に積み上がるからです。下げが自分で下げを呼ぶ形になります。
そして上。69,702円を終値で超えるまでは、いくら上がっても「戻り」です。上昇の再開ではありません。
明日から、日経平均の数字を見るときはこの2本と比べてください。それだけで、いまがどこにいるのかがわかります。
このあと見ておくところ
2026年8月20日(木)に7月の貿易統計、8月21日(金)に全国の消費者物価指数が出ます。
そして8月27日(木)からジャクソンホール会合が始まります。いま長期金利が上がり続けている局面なので、ここで金利に歯止めをかけるような発言が出るかどうかが、次の焦点になります。
まとめ
この日の下げは、半導体の決算が悪かったからではありません。
日経平均は値がさ株が動かす指数なので、アドバンテストと東京エレクトロンの2社で下げ幅の半分が作られました。そしてその2社を売らせたのは金利です。
さらにその金利を押し上げている一因が、AI企業の資金調達でした。AIにお金が集まるほど、AI関連株の評価は下がる方向に力を受ける。追い風と逆風が同じ場所から出ています。
日経平均を見るときは65,900円と69,702円。この2本と比べてください。
本記事の数値は2026年8月18日時点のものです。ここまでの話は、実際に起きたことの分析です。未来を保証するものではありません。
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つよび/よわび|マネーコンパス編集部。相場で実際に起きたことを1つ選んで、なぜそうなったかを初心者にもわかる言葉に翻訳します。今回は日経平均の寄与度ランキング、SQ値の公表値、日米の国債利回りの報道を直接確認しました。
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