金利を下げにきたのは日銀でもFRBでもなかった|長期金利は2つの部品でできている
最初に、ちょっと信じられない話をします。
「金利を決める権限を持たない人が、金利を下げた」
金利って日銀とかFRBが決めるものじゃないの、と思いますよね。普通はそう思います。私も最初そう思いました。
でも日銀が動いたわけじゃない。FRBが利下げしたわけでもない。
動かしたのは、別の役所です。
そして翌日、東証グロース市場250指数は1日で4.67%上がりました。日経平均の3倍以上です。
このつながりを、最後まで分解します。最後まで読めば、次にニュースで「金利」と聞いたとき、あなたは誰が動かしたのかが分かる側にいます。
まず事実から
2026年8月20日、日経平均は66,216円79銭。前の日から890円37銭高、プラス1.36%です。
主役は日経平均ではありません。同じ日の3つを並べます。
グロース250は、東証グロース市場のうち規模の大きい250社をまとめた指数です。
| 指数 | 終値 | 前日比 |
|---|---|---|
| 日経平均 | 66,216.79円 | +1.36% |
| TOPIX | 4,059.73 | +1.18% |
| グロース250 | 776.98 | +4.67% |
この3つの中で、グロース250だけ動きが違います。日経平均の3倍以上。3日ぶりの大きな上げでした。
グロース市場の中身を見ると、値上がりが479銘柄、値下がりが78銘柄。6倍以上の差がつきました。
なぜこの3つの中で、グロース250だけ動き方が違ったのか。
その前に、30秒だけ
このシリーズは、積立とインデックスの話を中心にしてきたところから、もう一歩踏み込むために作りました。オルカン、S&P500、FANG+。長い目で見れば積み上がってきた。
それは事実です。積立は、やっておいたほうがいい。
でも、それだけでは足りません。
NISAには「成長投資枠」があります。年間240万円まで、自分で選んで投資できる枠です。ここを使わないまま終わるのは、率直にもったいない。
ただし、勉強せずに個別株を買うのは危険です。何も知らないまま買うと、なぜ下がったのかも分からないまま終わります。
だから、一緒に勉強しましょう。相場で実際に起きたことを1つ選んで、なぜそうなったかを最後まで分解します。
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では、続けます。
1限目:なぜ、この3つの中でグロース250だけ動き方が違ったのか
いちばん大きかったのは、アメリカの長い金利が下がったことです。
ここで言う「長い金利」とは、30年国債の利回りのこと。長期金利とも呼びます。この記事では同じものを指します。
国債というのは、国がお金を借りるときに出す借用書です。買った人は、決まった利息を受け取ります。
8月18日、アメリカの30年国債の利回りが、取引中に一時5.33%台をつけました。2007年以来、19年ぶりの高さです。
翌8月19日、アメリカの財務省が発表を出しました。すでに発行済みの国債を買い戻す仕組みがあり、その1回あたりの上限を倍にする、という内容です。20億ドルから「少なくとも40億ドル」へ。対象は残存10年から30年、つまり返ってくるまであと10年から30年のもの。9月9日に始めて、11月4日まで続けます。
債券の決まりごとを1つ。国債は、買いたい人が増えると値段が上がります。値段が上がると、あとから買う人が受け取れる利回りは下がる。逆に動く関係です。
発表を受けて、19日の終値は5.19%。前日の終値から9ベーシスポイント、つまり0.09%の低下です。
長い金利は、国をまたいで連動しやすい。アメリカの30年が下がった翌20日、日本の長期金利も下がりました。だからこの日は、東京でも同じ理屈が働きました。
たとえば10年後に、100万円もらえる約束があるとします。いま同じ100万円を預けたら、利息がつく。だから10年後の100万円は、いまの100万円より値打ちが低い。
その値引き幅を決めるのが、金利です。
金利が下がれば、値引きが小さくなる。すると、将来の利益への期待で買われている株ほど、値札が上がります。
グロース250に並ぶのは、いま投資している最中で、利益はこれから、という会社が多い市場です。だから金利の上下に強く反応します。3つの指数の中でここだけ3倍以上動いたのは、そういう理屈でした。
前回の記事は、この逆回しでした。金利が上がって、期待で買われてきた銘柄が売られた日です。
なお前回、日経平均について「65,900円までの下げは、想定の範囲です。(中略)ただし終値で明確に割ったら、この下げは1か月では終わりません」と言いました。8月19日の終値は65,326円。0.87%だけ下回りました。ただし翌日には66,216円まで戻しています。
2限目:長期金利は1つの数字じゃない。2つの部品でできています
ここが今日いちばん持ち帰ってほしいところです。
長期金利という1つの数字は、実は2つに分けられます。
1つめは「これから政策金利は、どのくらいになりそうか」という予想。政策金利とは、日銀やFRBが決める、いちばん短い期間の金利です。
2つめは「それでも何十年も貸しっぱなしにするなら、もう少し上乗せしてください」という上乗せ分。
この2つを足したものが、長期金利です。
これから前を「予想の部分」、後ろを「上乗せの部分」と呼びます。
政策金利を上げ下げして動くのは、予想の部分です。上乗せの部分は、政策金利をいじっても直接は動きません。「長い債券が多すぎないか」「ちゃんと買い手はいるのか」という、需給と、先が読めないことへの不安の話だからです。
そして、いま主要国の長期金利を押し上げているのは、上乗せのほうです。
流れはこうです。
① 政府もAI企業も、長い期間の借金を大量に出している
② 長い債券が、市場にあふれる
③ 買い手は「これだけ増えるなら、もっと上乗せをくれ」と要求する
④ 上乗せを小さくするには、債券を買って減らすか、出す量そのものを減らすか
⑤ 買って減らす側は、いま引いている。だから、出す側が動いた
買って減らす側とは、中央銀行のことです。中央銀行が長い債券を買えば、市場に出回る量が減って、上乗せは小さくなります。量的緩和も、日銀が長期金利を直接誘導していた政策も、やっていたのはこれでした。
上乗せを押し下げていたのは、むしろ中央銀行だったんです。
ところが、いまその買う側が引いています。日銀は、買い入れ額を減らしてきました。FRBは国債を買ってはいますが、買い増している分は期間の短い国債に寄せていて、長い年限を新たに買い増してはいません。
やり方は違うのに、長い債券を引き受ける側からは、そろって降りているんです。
つまり、上乗せを押し下げてきた側が、いまは押し上げる側に回っている。
だから、もう一方の側、国債を出している側が動きました。アメリカでそれをやっているのは、FRBではなく財務省です。だから今回の発表を出したのは、スコット・ベッセント財務長官が率いる財務省でした。
金利の話なのに中央銀行が出てこない。変な話ではなく、理屈どおりです。
最後に、財務省が挙げた目的を見ると、一見、話がずれています。
発表文の言葉は「長期ゾーンの流動性を支えたい」。長い期間の国債を、売り買いしやすい状態に保ちたい、という意味です。利回りを下げる、とは書かれていません。
でも、ずれていません。
買い戻しの対象は、発行から時間が経って、売り買いされにくくなった古い銘柄です。売りにくい債券は、その売りにくさの分だけ上乗せを要求されます。
使い勝手を良くする、とは、その上乗せを削るということ。
しかも、長い年限を市場から引き取れば、出回る量そのものも減ります。ただし減るのは長い年限の量であって、借金そのものではありません。買い戻した分は、短い期間の国債で借り直します。
「流動性を支えたい」は建前ではありません。ただ、それだけでもない。売り買いしやすくすることと、長い年限を減らすこと。2つが同時に効きました。
金利が上がっているのは、日本だけではありません。8月中旬の時点で、こうです。
| 国 | 30年国債の利回り |
|---|---|
| 日本 | 4.1% |
| イギリス | 5.8% |
| フランス | 4.9% |
| ドイツ | 3.7% |
イギリスは1998年以来の水準に迫っています。
今日のことば辞典:タームプレミアム
2限目で出てきた「上乗せの部分」。これに付いている正式な名前が、タームプレミアムです。
友達にお金を貸す場面を思い浮かべてください。「来週返すね」なら、わりと気軽に貸せます。でも「10年後に返すね」と言われたら、同じ金額でも「じゃあ、ちょっと多めに返してね」と言いたくなりませんか。
その「ちょっと多めに」が、タームプレミアムです。
10年のあいだに何が起きるかを、前もって決めておくことはできません。インフレが来る。もっと条件のいい貸し先が現れる。どちらが起きても、貸したお金は10年戻ってこない。
その動けなさに対する代金なんです。
大事なのは、これが景気の予想とは別物だということ。景気が良くて上がる金利と、貸し手が不安で上がる金利。同じ「金利上昇」でも、中身はまるで違います。
しかもこれ、気分の話ではありません。推計値がちゃんと公表されています。ニューヨーク連邦準備銀行が、ACMモデルという方法で出しています。アドリアン、クランプ、モエンクという3人の研究者の頭文字です。
ひとつだけ注意があります。タームプレミアムは、株価のように直接見える数字ではありません。モデルで推計する数字です。モデルが違えば、答えも変わる。実際、ニューヨーク連銀の推計と、FRBの理事会側で使われている別のモデルの推計とでは、同じ時期でもかなり差が出ます。
なので数字そのものを覚える必要はありません。見るのは方向です。上がっているのか、下がっているのか。それで足ります。
プロの物差し:アメリカの30年国債利回りを「5.19%」で見てください
今日はここにメスを入れます。数字は1つだけ覚えて帰ってください。
5.19%です。
8月19日、財務省の発表を受けて30年国債の利回りが着地した水準です(正確には5.195%。以下5.19%と呼びます)。その前日には取引中に5.33%台をつけて、19年ぶりの高さになっていました。
日本株の話なのに、なぜアメリカの国債なのか。そう思いますよね。でも今日たどったとおり、グロース250が1日で4.67%上がった理由は、ここから始まっています。
そのうえで、言い切ります。
買い戻しは、金利を下げ切る道具ではありません。上がるスピードを緩める道具です。
少なくとも、翌8月20日の動きはそう言っています。下げた分を、翌日にはもう戻し始めました。
だから、見るところはここです。
5.33%は取引中につけた高値です。だから終値がここを超えるということは、高値そのものを更新するということ。そうなったら、買い戻しは効いていないと判断します。19年ぶりの高値を更新しにいく形になるので、成長株にかかる重さはむしろ増します。
5.19%より下に居続けるなら、効いています。今回のような反発が続く土台になります。
5.0%を割ってきたら、そのときは重さが本当に取れたと判断していい水準です。5.0%は、私が目安として置いている線です。
日経平均の数字を見る前に、この数字を見てください。順番が逆だと、理由をたどるのに遠回りになります。
このあと見ておくところ
買い戻しは9月9日に始まり、11月4日まで続きます。買った量は、そのつど公表されます。
見るのは1つだけ。買っているのに利回りが下がらない、という展開になるかどうかです。もしそうなったら、長い金利を押し上げている力は、財務省が扱える量を超えているということになります。
まとめ
この日、3つの指数の中でグロース250だけが3倍以上上がったのは、アメリカの長い金利が下がったからでした。
その金利を下げにいったのは、FRBではなく財務省です。長期金利は「予想の部分」と「上乗せの部分」でできていて、政策金利で直接動くのは予想のほうだけ。いま上がっているのは上乗せのほうだからです。
上乗せを小さくするには、債券を買って減らすか、出す量を減らすか。その買う側がいま引いている。だから、出す側が動きました。
アメリカの30年国債利回りは5.19%。この数字と比べてください。
本記事の数値は2026年8月20日時点のものです。ここまでの話は、実際に起きたことの分析です。未来を保証するものではありません。
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つよび/よわび|マネーコンパス編集部。相場で実際に起きたことを1つ選んで、なぜそうなったかを初心者にもわかる言葉に翻訳します。今回は米財務省の買い戻し発表、米30年国債の利回り推移、東証グロース市場の大引け集計を直接確認しました。
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